研究者の立場から

友末 亮三((財)スポーツ医・科学研究所)

友末氏は研究者の立場から,スポーツ工学が現場にどのように生かされているかを語った。用具,そのなかでもラケットの進歩が,テニスの試合展開だけでなく,打ち方そのもの,また指導理論までをも変えてきた様子を,ビデオ,OHPなどを豊富に使って説明した。
とくに興味が深かったのは,普段われわれが目にすることのない,スザンヌ・ランランやビル・チルデンといった戦前の名選手のビデオである。ランランは激しく走り,高く跳び,その運動量は現代のテニスにも匹敵するのでは・・・と思えた。

友末氏はラケットの進歩によって,時代を3つに分けた。1つめは,コントロール重視の木(ウッド)の時代。この時代は,ボールも現在のものほど飛ばなかったようだ。2つめは,スピードがアップしたグラスファイバー(デカラケも登場)の時代。コナーズ,ボルグ,マッケンローが活躍した時代である。そして3つめが,パワーテニスの時代。ベッカーやクーリエが代表選手である。
このパワーテニスの時代に,厚ラケが登場した。当初は競技としてプレイする人の間には浸透しなかったが,徐々に選手の間でも使われるようになってきた。友末氏も,10年ほど前のテレビ番組のなかで「私は厚ラケはつかいません」と宣言したものの,そのわずか半年後には厚ラケ握っていたとのことである。

さて,スポーツ科学が役立った例として,友末氏は“スプリット・ステップ”をあげた。サーバーがサーブするときにレシーバーが行う予備ジャンプのことだが,ちょっと見たくらいでは,いつジャンプしているのかがわかりにくい。そこで,わずかでも上下に動くとその動きを検出する装置を用いて実験を行った。その結果,サービスのインパクトの瞬間にジャンプの最高点に達していることが,明らかになった。
こうしたデータがあれば,指導上はっきりとしたアドバイスができるようになる。スポーツ科学,とくにスポーツ工学が現場に役立った代表例である。

スポーツ科学が役立ったもう一つの例として,最近引退した伊達選手の『ひねり動作』があげられた。伊達選手というとライジングが有名だが,この『ひねり動作』も,世界のトップクラスに到達するために不可欠だったようだ。
具体的には,筋肉が骨格にらせん状についていることに注目したもので,テイクバック時,最大限に筋肉が引き伸ばされるように腕や脚をひねってやる。これにより,これまでのテイクバックよりも,大きなパワーが発揮できるという。このことも,スポーツ科学,とくに身体の構造に関する知識が現場に貢献した例といえるだろう。

また,経験の中で間違っていることを指摘した例として,『振り回し練習』があげられる。振り回し練習中の血中乳酸濃度を測定したところ,試合中には到達しえないほどの高い値を示していた。このことを踏まえ,友末氏はもっと短時間で早いテンポの振り回しなら試合に役立つ,としている。

最近の,
「テニスの試合を見ていてもおもしろくない」
という声に応え,
「サービスを1本にすべき」
という提案もあった。これに関しては賛否両論あろうが,いずれにしても,テニスをおもしろくしようという姿勢はいつの時代でも必要かもしれない。

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