埼玉工業大学 工学部 応用化学科

有機材料化学研究室
Laboratory of Organic Materials
基礎教育センター助教授  田中 潤 Jun Tanaka


.プラスチックバッテリー
 プラスチックバッテリーは、今までのバッテリーとは比べものにならないほど軽量で形状も自由に変えられるばかりでなく、重金属のような環境汚染問題の心配がないクリーンな電池と言える。さらに、近年、携帯電話やモバイル機器など小型電子機器の急速な普及に伴い、軽くて、より大きなエネルギーを蓄えることのできるバッテリーの必要性が期待され、プラスチックバッテリーへの注目度もますます高くなっている。
プラスチックはもともと絶縁体として知られ、それゆえの利用範囲も多方面にわたっていた。しかし、有機物の中でもπ共役系高分子に導電性の可能性が見出された。ノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士は、特殊な条件下でアセチレンガスを重合させることによりポリアセチレンフィルムが出来ることを発見し、さらに、アメリカのマクダミッド博士がこのフィルムにいろいろなイオンをドープさせることにより二次電池の電極に応用した。
研究室のテーマの一つとして、電極材料にπ共役系高分子フィルムを用いた種々のプラスチックバッテリーの作製を目指す。電解質として種々の無機塩類および電気デバイス分野などで注目されているイオン性液体等を汎用プラスチックに分散させたフィルムに、上記の電極を固定化したバッテリーをそれぞれ作製し、その性能を比較、評価している。このバッテリー系は電極に用いるフィルムの作製条件により、それらに対応した所定の性能を有するバッテリーを作製することができる。現在、放電容量やパワー密度などの性能面の向上と共に耐環境性に優れたバッテリーの作製と応用面について、さらに検討している。

.液晶・高分子複合膜
 携帯電話などの小型パネルから40インチにもおよぶ薄型テレビまで、液晶の表示材料としての利用は急激に拡大している。液晶は低分子でも分子を配向させることは可能であるが、その配向状態を安定に保つことは難しい。それに対して高分子液晶では安定に保持することができる。また、液晶表示用のパネル型セルは、形状の自由度,大面積化,視野角などの視覚性の面から解決すべき問題点も多い。これに対して液晶・高分子複合膜は液晶機能を大面積でしかもフレキシブルフィルム内で発揮させることができるなど、新しい機能性を持つ表示材料として期待されている。
テーマの二つめとして、液晶のみでは実現できない機能性を有する新しい表示材料への応用を期待し、液晶と高分子との複合膜を種々作製している。ここでは、種々の汎用高分子の網目構造内に、市販されている液晶および当研究室で現在までに合成した新規の液晶を固定化させたフィルムを目指す。物性の評価方法として、熱,光,電気による膜中の液晶の相転移現象および配向性をデジタルカラーカメラ付きシステム顕微鏡で観察している。今後は、表示機能としてだけではなく、例えば選択分離機能膜などへの新規な応用面についても検討していく。