電子回路は、主に電気信号の電圧を処理する回路で、抵抗やコンデンサ、トランジスタなどによって構成されています。また、電気信号にはアナログ信号とディジタル信号があり、私たちの声や音楽などを電気に変えただけのもの(複雑な波形になる)をアナログ信号、それを更にサンプリング(一定の間隔で波形の離散値だけを取り出すこと)して、離散値をパルス(矩形)波であらわしたもの、あるいは離散値(数値)そのものをディジタル信号といいます。

 

 アナログ信号に対しては、処理の仕方に応じて回路を組みなおす必要があります。一方、ディジタル信号は数値なので、計算回路(ディジタル回路の一種)を用いればさまざまな処理を行うことができます。計算回路においては、処理に応じて回路を組みなおす必要はなく、変わりに処理(計算)の仕方をプログラムによって指示する必要があります。または、専用の高速なディジタル回路を用いて、プログラムによって、あるいはそのまま処理を行うこともできます。

 

 ただ、ここでお話したいことは、アナログ信号に対する電子回路のお話です。ディジタル計算回路はパソコンに入っているCPUのようなもので、これはこれで色々な構成の仕方がありとても面白いのですが、結局は計算機である、という面からいうと種類は一つなのです。

 一方、アナログ電子回路においては、処理に応じた回路を必ず組む必要があるので、これまでにとても沢山の回路が研究されているのです。また、回路システムにおける様々な重要な概念もここから生まれてきました。

 

 アナログ電子回路の基本は何と言ってもトランジスタによる増幅回路でしょう。エミッタ接地型やコレクタ接地型など幾つかの接地方式がありますが、要するに入力信号電圧を増幅して出力するのです。ここでいう入力信号は交流であり、交流の増幅をするために直流電圧が必要になります。

 ですから、小さな交流が何のエネルギーもなしに大きくなったという訳ではないのです。また、直流電位を与えるのは、交流電位が正負の値を有するために、直流電位により全体の電位を上げる意味も持っています。これによってトランジスタが動作します。

 

 アナログ電子回路を学ぶ上で初心者には捕らえにくいと思われる概念の一つが、この直流と交流の共存の考え方のようです。直流を与えた上で交流を加えるってどういうこと??こういう人は、直流と交流を別物と考えすぎているのではないでしょうか。

確かに直流は時間的に変化がない波形で、交流とは異なりますが、逆に言えば時間的に変化がないのが直流で変化があるのが交流な訳で、両者とも時間軸を持つ同じ電圧なのです。ですから、当然これらは加え合わせることができます。このように考えると、これらが共存することが自然に理解できるのではないでしょうか。また、交流電圧の正と負では電流の向きが逆になるだけで、電圧の強さが変わるわけではないのです。

 

 しかしながら、電子回路の解析においては、直流電圧を加えた場合と交流電圧を加えた場合とで、

別々に解析を行うのが普通です。この際、特に捉えにくいのが交流解析でしょう。直流電源を接地して考えることや、回路によっては負の電圧利得(入力電圧と出力電圧の比)がでてきたりすることが、わかりづらいようです。

 交流信号に関する議論なのだから、直流電源はないものとして考えるのは慣れてしまえばごく普通の見方であるし、入力信号に対して出力が負になるというのは、波形が単に上下逆転すると考えれば良いと思います。波形の縦方向の振れの大きさが変わるのは正負の符号とは関係ないのです。

 

 また、直流と交流の関連においては、負荷線と静特性曲線、動作点もわかりづらいようです。

負荷線はトランジスタを除いた場合の回路によって決まる電圧降下の関係式で、静特性はトランジスタそのものの電圧電流の関係です。

 ですから、負荷線を有する回路にトランジスタを挿入したときに、その回路が動作する点(直流の電圧と電流値)は、負荷線と静特性曲線との交点でしかありえないのです。また、この点を基準として更に交流電圧が付加されて動作するのです。

 

 もう一つ、電子回路でわかりづらい重要な概念が帰還と呼ばれる考え方です。これは出力信号の一部を入力に帰還する(戻す)ことを言います。増幅回路に帰還をかける場合は、出力信号の一部を入力に戻して、それを増幅したものが出力になる、というような感じになります。こうなると、出力がどんどん大きくなりそうですが、まさにそうなり得ます。そうなったときの状態を発振と言います。

 一方、帰還を適切にかけてあげると、出力が大きくなったときに入力を抑えることができます。

これは負帰還と呼ばれ、このような帰還をかけると色々な利点が生まれます。大きな増幅度のときにも利得が安定化することは言うまでもなく、出力部で付加された雑音を抑えたりできます。

 

 このような考え方を応用したのがオペアンプ(演算増幅器)と呼ばれる電子回路です。通常、オペアンプは非常に大きな増幅度を持っていますが、これに帰還をかけてあげることで一定の利得を持ち、信号の様々な演算が可能になります。また、信号のある周波数成分だけを取り出すフィルタを実現することもできるのです。従って、オペアンプは現代の電子機器の多くに取り入れられています。

 

 オペアンプの初段には差動増幅回路があり、もともとは二つの入力端子の差動成分を増幅しますが、一つの入力端子に帰還を適切にかけることで、この二つの入力端子間の電位差は0になります。この際、もう一方の入力端子へは信号が入力されます。このような状態においては、帰還部における回路素子の種類や配線の仕方によって、様々な信号演算を行うことができるのです。

 

 私は、回路システムを学び始めたころ、このオペアンプを用いた信号処理回路に興味を持ちました。オペアンプの内部にはあまり興味はなく、オペアンプを利用したシステムを考えたりしてました。このときに必要なのは、端子間電位が0であることを利用すること、であり、増幅や帰還の原理はあまり知りませんでした。しかし、そのうちに内部について知りたいと思い、そうしたら電子回路の増幅やら帰還やら色々と勉強することになったのです。

 但し、電子回路を学ぶには、電気回路の基本的な知識がまず必要となりますので、普通は「電気の次に電子」と覚えていたほうが良いと思います。