理工系の大学にはおそらく信号処理あるいはそれに相当する科目が設置されているとは思います。特に、ディジタル信号処理は数列を処理する計算処理のようなものですから、そういう意味で数学を応用する分野であると言えます。例えば、システムを記述するための行列、線形代数や、最適化のための微分積分、方程式などは、信号処理の分野では、よく使われています。これら基礎数学は大学の初年度に学ぶことが多いと思います。

一方で、高校数学に関してはどうでしょうか。現在では、数学Uで三角関数や指数、対数関数、微分積分の基本などを学習するようです。実は、三角関数は信号処理の分野ではとても重要です。信号処理では周波数を持つ波形を扱うからです。また、指数のある関数も扱うことから、指数関数についても理解しておく必要があります。

高校のときは、数学が受験以外に何の役に立つのか、いまいちわからなかった記憶があります。英語などは、外国人と話すために必要とか、簡単に理由が思いついたものですが、皆さんはどう思いますか。日常生活で、簡単な計算をすることはあっても、方程式を解くことはあるでしょうか。対数を扱うことがあるでしょうか。少なくとも、理工系の大学での勉強に必要なことがもう少し具体的にわかっていれば、高校数学がより楽しく学べたのかも知れません。

さて、受験といえば、教科書の知識をさらに応用した、面白い問題がたくさん出題されます。このような問題を解くためには、問題からヒント、つまり出題者の意図を読み取ることが近道だと思います。直接的に問題を解こうと考えるよりは、この問題はそれを解こうとする者に、どういうことをさせたいのか、それを読み取ることが重要だと思います。そして、そのヒントは、問題をよく観察することにより見えてくることが多いものです。

これと比較して、研究における問題、課題についてはどうでしょうか。おそらく、受験やテストの問題とは全く異なると言えるでしょう。第一に、答があるのかどうかわからないということです。どんなに考えても、答がなければその問題を解決することはできません。第二に、答があるとしても、そこに到達するためのヒントを、さりげなく、あるいは明示的に、問題の中においてくれるような心優しい出題者は、そもそもいません。ですから、どの方向から考えれば答に到達できるのか、自分で最初から全て、いろいろと検討することになります。

このように考えると、研究だけでなく、身の回りの様々な問題についても同様なことが言えるのかも知れません。答があらかじめ用意されている問題を解くことと、そうでない問題を解くことの違い。前者に関しては、学校でたくさん勉強できますが、後者に関してはそうではありませんね。このような意味で、学校で学ぶことが如何に簡単なものであるか、そう思えてきませんか。